『アイデアだけは、バーゲンセールしてもいいくらいあるんだ。』 - 手塚治虫

創造士AI | AIを考える Vol. 0001「脳を読めるAI技術の発表とその未来」

SoZoShi LLC., AI article "Mind Reading AI Tech"

2023年10月18日、Metaが「脳の活動をリアルタイムで解読する技術」について発表しました(詳細はこちら:リンク)。簡単に言えば、脳内活動をリアルタイムで測定し、それを大規模言語モデル(LLM)に接続して、被験者の脳内を予測する技術です。

実は、これに類似した技術が既に2023年5月1日にテキサス大学から発表されています(詳細はこちら:リンク)。どちらも脳の活動を測定し、LLMを使用してその測定結果を人が理解できる表現に変換することに成功しました。言わば脳内情報の「翻訳」となる訳ですが、両実験の違いはテキサス大学が脳の血流を可視化するfMRIを使用したのに対してMetaは脳の微細な電気信号を計測するMEGを使用したこと、それぞれの入力データに特化したデコーダーを開発したこと、そしてテキサス大学が「言語」の予測に取り組んだのに対してMetaが「画像」の予測に挑戦したことにあります。

著作権の関係上、実験結果の映像は省略しますが、被験者の脳活動をリアルタイムで測定し、その結果を「解読」した上で「翻訳」することで驚くべき成果をそれぞれの公開情報から確認できました。要するに、「思考というインプットのみで脳内をのぞける技術」が実験段階で成功したことになり、SF映画に迷い込んだかの様な感覚です。では、この技術の将来はどうなるのでしょうか?

まずはスケーラビリティの観点からすると、脳活動の測定結果を「翻訳」するLLMは財布サイズほどの装置に収めることが可能で、LLM自体をクラウド化する事でそれこそスマートフォンに内蔵することは容易です。より難しくなる測定機材に関しては、テキサス大学が測定に使用したfMRIは巨大な機器であるために小型化が困難と考えらる反面、Metaが使用した機材はある程度の小型化が可能とされています。また、Elon Musk氏が立ち上げた「Neuralink」は脳内に直接電極を埋め込んだ上で外部機器と接続するインターフェースを開発し、既に被験者を募集しているなど、手法によって違いはあれど、概ね小型化は可能な方向で進んでいます。

どちらかと言うと課題は倫理的な観点から見た課題が近い将来に解決されるとは想定しにくい点にあります。そもそも思考を営利団体が「ビッグデータ」として保有し活用する課題のみならず、測定機材の精度向上によって他人の思考を検知して「傍受」することが可能になる危険性は勿論の事、信号を読み取って「翻訳」できるのであれば逆に外部の意図を信号に変換して脳へ伝達する「逆流」もリスクとして視野に入れざるを得ません。

22年の秋以来、生成系AIの研究は「基礎」から「応用」へと移行し、その成果の発表が爆発的に増加しています。したがって、世界全体に適用される「倫理」の指針が必要と叫ばれて久しいですが、個人的には多分に政治的な要因によって世界規模でのコンセンサスに達するのは難しいと思っています。なので、次のステップとしては個別の自己防衛が方向性の一つとして考えられるのですが、実は日本の三つの特性がこの防衛にとって有利な影響ももたらすと考えています。まず、日本語を使用する人口が世界的に少なく、ニュアンスを含めると理解が難しい点。次に、他人の思考を赤裸々に知る必要がないと多くの日本人が考えている点。そして、地政学的にも「ガラパゴス化」している点。要は「ふわっ」とした表現しなくても得られる社会的コンセンサスを読解が難しい言語を用いて形成する島国社会である為に、自然と防壁が出来ている状態になります。

それでもなお、技術革新によって生成系AIがもたらす変革は前例のないものであり、我々の思考すら生活の一環としてデジタル化された上で解読される現実が迫っています。この状況に対処するためには、待ったなしで慎重な考慮が必要とされているのでは無いでしょうか。

※イメージ画像は生成系AIによって生成されたものとなります。